ショパンの真実

歩き疲れた頃、ハンナがピアノが弾けるサロンがあるから行ってみませんか?と私に提案した。

ハンナに案内されるまま私はハンナに付いて行った。

そこは小さなサロンで、コンサートグランドピアノが置いてあった。サロンのオーナーがに

こやかに「どうぞ演奏なさってください」と私に言った。

ピアノを見たとたん、私は旅の疲れも忘れて久しぶりの友に逢ったような気分になった。

私は、ハンナにお礼がしたくなりショパンスケルツォをウォーミングアップなしで、椅子

に座るや否や直ぐに演奏をした。

私は夢中で演奏した。演奏はあっと言う間に終わり気が付くとポーランドの人が何人か集ま

って来ていて拍手をくれた。ハンナは興奮気味に拍手をしながら私に駆け寄り「あなたはき

っと有名な人です、ショパンコンクールに出るのですか、あなたは素晴らしいです」

ハンナの期待の目に私はどう答えていいか困ったが「いいえ、私はショパンコンクールには

出ませんよ」と少し照れながら笑って答えた。

するとハンナは「ごめんなさい、ごめんなさい、私はあなたの心を傷つけました。

本当にごめんなさい、許してください。けれど、あなたの演奏に私は心を動かされました。

私は、あなたのような素晴らしい人と出会えて光栄です。」ハンナは真剣な目で語り私の手

を取り私にお礼を一生懸命に述べるのであった。

ハンナの真剣な気持ちと純粋さが私の手に伝わった。

演奏するとはこういうことなんだと私は新めて感じた。そしてハンナの言葉に隠されていた

ポーランドの人の心を知って私は心が洗われたのだった。

私はハンナに教えられた、ショパンは誰のものでもないのだ、ショパンショパンを愛する

心のある人たちのものである。

演奏家はそれに寄り添い、どれだけの表現ができるであろうか。口で言うのは容易いがそこ

が簡単ではないのだ。